Grafana LabsのGitHubリポジトリへの不正アクセス
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Grafana Labsが2026年5月16日に確認した標的型攻撃では、サイバー犯罪集団が同社のGitHubリポジトリに不正にアクセスしてコードベースをダウンロードし、データの公開を脅しに身代金を要求した[1]。発端はTanStackのnpmサプライチェーン攻撃で、更新から漏れたトークンが侵入に使われた[1]。6月23日の事後レビューで同社は、顧客の本番システムへの不正アクセスは無かったとし、調査を終えた[2]。
経緯
侵入の経路と見落とし
Grafana Labsは第2報で、不正な活動を検知して直ちにインシデント対応計画を始め、分析のうえで多数のGitHubワークフローのトークンを素早く更新したと説明した[1]。その後の確認で、当初は影響なしと判断した特定のGitHubワークフローが、実際には侵害されていたことが分かった〔注2〕〔注3〕[1]。
6月23日の事後レビューでGrafana Labsは、関係する資格情報はすべて更新したと当時は考えていたが、1つを見落としていたと認めた[2]。悪意ある者は、見落とされた資格情報でリポジトリ群全体を複製した[2]。最初の悪意あるコミットに使われたgrafana-delivery-botは、Shai Huludの攻撃者から漏れたものだった[2]。
Infosecurity Magazineは、悪意あるパッケージが公開されたときにGrafanaのCI/CD環境が自動で取り込み、情報窃取型マルウェアが実行されてGitHubワークフローのトークンを持ち出したと報じた[13]。
npmパッケージへの攻撃の手口
TanStackの事後報告によると、攻撃者はpull_request_targetの「Pwn Request」のパターン、フォークと本体の信頼境界をまたぐGitHub Actionsのキャッシュ汚染、ランナーのプロセスのメモリからのOIDCトークンの抽出を組み合わせ、悪意ある版をnpmに公開した[3]。マルウェアは、環境変数・gh CLI・.git-credentialsにあるGitHubトークンなどの資格情報を集める[3]。被害者がメンテナンスする他のパッケージに同じ注入をして再公開し、自己増殖する[3]。npmのトークンは盗まれておらず、npmの公開ワークフロー自体も侵害されていない[3]。
StepSecurityは、TeamPCPがMini Shai-Huludワームの新たな波を始め、複数の@tanstackのnpmパッケージを侵害したと報告した[5]。この侵害はCVE-2026-45321として登録された[4]。CVE記録のCVSS 3.1の基本値は9.6である[4]。
犯行の主張と攻撃者の帰属
The Recordは、恐喝集団CoinbaseCartelが金曜にGrafana Labsから情報を盗んだと主張し、事態が表面化したと報じた[9]。CoinbaseCartelは昨年Scattered Lapsus$ Hunters(SLSH)の分派として現れ、攻撃にランサムウェアを使わず、盗んだ資格情報とソーシャルエンジニアリングで侵入する[9]。
SecurityWeekの5月18日の記事によると、GrafanaはCoinbase Cartelのサイトに5月15日に掲載されたが、記事の執筆時にはデータは流出していないとみられる[10]。リークサイトの掲載を集計するRansomware.liveも、CoinbaseCartelのページにGrafanaを載せている[7]。
Help Net Securityは、TeamPCPがGitHubへの侵害を主張しており、Grafanaの侵害の背後にもいる可能性が高いと報じた[12]。
時系列
| 日付 | 主体 | 内容 | 資料 |
|---|---|---|---|
| 2026年 | - | TanStackの42のnpmパッケージで、84の悪意ある版が19時26分(UTC)までに公開された | [3] |
| 2026年 | Grafana Labs | セルフホストランナーで悪意あるコードが初めて実行されて資格情報が漏れ、資格情報を更新した(UTC) | [2] |
| 2026年 | - | grafana-delivery-botで最初の悪意あるコミットが行われた(UTC) | [2] |
| 2026年 | - | リポジトリのデータの持ち出しが始まった(UTC) | [2] |
| 2026年 | - | データ恐喝の攻撃者が恐喝の要求を公開した(UTC) | [2] |
| 2026年 | Grafana Labs | セキュリティチームが身代金の主張を把握し、確認を始めた(UTC) | [2] |
| 2026年 | Grafana Labs | 侵害を確認し、インシデントを宣言した(UTC) | [2] |
| 2026年 | Grafana Labs | すべてのGitHubアプリケーションの停止を終えた(UTC) | [2] |
| 2026年 | Grafana Labs | 攻撃者に関連するGitHubアプリケーションのアカウントのコード変更をすべて特定して元に戻し、16時52分(UTC)に根本原因と攻撃の連鎖を特定した | [2] |
| 2026年 | Grafana Labs | 重要でないコードとデプロイの変更の凍結を始めた(UTC) | [2] |
| 2026年 | Grafana Labs | ブログで第2報を出した | [1] |
| 2026年 | Grafana Labs | 社内調査を終えた | [2] |
| 2026年 | CISA | CVE-2026-45321をKEVに加えた | [4] |
| 2026年 | Mandiant | 独立した監査の調査を行い、社内調査を裏付けた | [2] |
| 2026年 | Grafana Labs | 事後レビューを公表した | [2] |
影響範囲
Grafana Labsの8月26日の発表では、同社の顧客は世界で10,000を超えた[14]。
第2報の所見では、範囲はGrafana LabsのGitHubリポジトリ(公開・非公開のソースコードと社内のGitHubリポジトリ)に限られる[1]。初期の評価の後、ダウンロードされた内容にはソースコードのほか、一部のチームが社内の運用情報や事業の詳細の共有・保管に使うリポジトリが含まれていた[1]。コードベースはダウンロードされたが、改変されていない[1]。
Grafana Labsは事後レビューで、ソースコードの大半は公開しているが、社内ツールやGrafana Cloudの特定の機能などの非公開リポジトリを持つと説明した[2]。
初報の声明でGrafana Labsは、顧客データや個人情報へのアクセスは無かったと説明していた[9、11]。第2報は、取得物に業務上の関係でやり取りする取引先の連絡先の氏名とメールアドレスが含まれるとした[1]。事後レビューは、過去のマーケティングキャンペーンで使ったメールアドレスも挙げた[2]。これらは本番システムやGrafana Cloudから引いた情報ではない[1、2]。
Grafana Labsは、自社のドメインのメールアドレスが含まれていたかを知りたい場合はサポートに問い合わせるよう案内した[2]。顧客とOSSの利用者に今のところ必要な対応は無いとし、顧客のシステムや運用への影響が判明すれば直接通知するとした[1]。
対応と現状
Grafana LabsはXの公式アカウントに初報の声明を投稿した〔注1〕[16]。Help Net Securityが伝えた声明で、Grafana Labsは直ちにフォレンジック分析を始め、資格情報の漏えい元を特定したと考えていると説明した[11]。侵害された資格情報は無効にし、追加の対策を講じた[11]。
第2報では、Grafana Labsは身代金を支払わないと判断した[1]。支払いは安全を保証せず犯罪を助長するだけだとするFBIの正式な立場に沿う判断だとした[1]。連邦の法執行機関に通報し、継続して連絡を取る[1]。恐喝集団から連絡を受けた直後から、緩和の措置を始めた[1]。
Grafana Labsは事後レビューで、本番の顧客データが侵害されていないことを確かめるため、Vault・GitHub・Okta・Kubernetes・AWS・GCP・ホストのログを横断して監査したと説明した[2]。DockerHubの資格情報は侵害されていないと判断した[2]。社内調査では、追加の攻撃活動や侵害された資格情報は見つからなかった[2]。その後の数週間で、監査と見直しを進めた[2]。
- セキュリティの観点でのPRのレビュー1,500件[2]
- GitHubアプリケーション280件の監査と、権限の削除、一部のアプリケーションの削除[2]
- 改ざんの兆候を探す1,200のリポジトリの走査[2]
- 1つの重要なリポジトリでの、不正な変更を探すPRのレビュー2,300件[2]
- インフラの監査の完了と旧システムの廃止[2]
- 新たなアクセスの監査[2]
事後レビューによると、凍結を解く条件は、リポジトリの全レビューと、短期で細かい範囲の資格情報を出すGitHubアプリケーションのトークンブローカーへの移行だった[2]。イメージの送り先は、DockerHubへの直接のプッシュからGoogle Cloud Artifact Registryに移した[2]。トークンブローカー、細かいアクセス制御、追加のアラート、静的解析を導入し、一部のGitHub Actionsをやめて範囲を絞ったActionsと短命のトークンを使う[2]。GitHubの組織の区画化も始め、アーカイブ済みのリポジトリはActionsを無効にした専用の組織に隔離する[2]。
Grafana Labsは6月1日に第2報へ追記し、社内調査の完了と、Mandiantへの追加の監査の依頼を示した[1]。Mandiantには、ログ環境へのAPIアクセスを提供した[2]。Mandiantは、公開の組織とエンドユーザーに配布する本番のリポジトリで、コードの改ざんやリポジトリの汚染の証拠は無いと確認した[2]。
未公表の事項
- 悪意あるTanStackの版を取り込んだリポジトリとワークフローの名前、更新から漏れたトークンの種類と権限
- 持ち出されたリポジトリの数と、取得物に含まれた連絡先の件数
- Grafana Labsの説明での攻撃者の名前
- 盗まれたコードの公開の有無
- 要求された身代金の額
注
出典
当事者
- [1]Grafana Labs『Grafana Labs security update: Latest on TanStack npm supply chain ransomware incident』(2026年5月19日公開、2026年6月23日更新)
- [2]Grafana Labs『Post-incident review for TanStack npm supply chain ransom incident: No unauthorized access to customer production systems』(2026年6月23日公開)
- [16]Grafana LabsのXアカウント(@grafana)『2026年5月17日の投稿』(2026年5月17日公開、保存記録のみ) 保存記録
関係組織
- [3]TanStack LLC『Postmortem: TanStack npm supply-chain compromise』(2026年5月11日公開、2026年5月15日更新)
公的機関
- [4]CVE Program『CVE-2026-45321: Malware in 42 @tanstack/* packages exfiltrates cloud credentials, GitHub tokens, and SSH keys』(2026年5月12日公開、2026年8月4日更新)
調査・観測
- [5]StepSecurity, Inc.『TeamPCP's Mini Shai-Hulud Is Back: A Self-Spreading Supply Chain Attack Compromises TanStack npm Packages』(2026年5月11日公開)
- [6]ZeroFox, Inc.『Flash Report: Grafana Labs Source Code Theft and Extortion Attempt』(2026年5月20日公開)
- [7]Ransomware.live『Ransomware.live: Coinbasecartel』(公開日不明、2026年11月4日閲覧)
報道機関
- [9]Recorded Future News『Grafana refuses to pay ransom after codebase theft』(2026年5月18日公開)
- [10]Wired Business Media『Grafana Confirms Breach After Hackers Claim They Stole Data』(2026年5月18日公開)
- [11]Help Net Security『Attackers accessed, downloaded code from Grafana Labs' GitHub』(2026年5月18日公開)
- [12]Help Net Security『GitHub, Grafana Labs breaches traced back to TanStack supply chain compromise』(2026年5月21日公開)
- [13]Reed Exhibitions『Grafana Labs Says Code Breach Stemmed from TanStack Attack』(2026年5月21日公開)
- [19]アイティメディア株式会社『「コードを公開されたくなければ支払え」 Grafana Labs侵害で見えた新恐喝モデル:開発基盤は攻撃者の格好の獲物に』(2026年5月19日公開)
背景資料
- [14]Grafana Labs『Grafana Labs Crosses 10,000-Customer Milestone as AI Adoption Accelerates Growth Across the Platform』(2026年8月26日公開)
- [15]Grafana Labs『Grafana security update: no customer impact from GitHub workflow vulnerability』(2025年4月28日公開)
更新記録
- 2026年5月21日:公開した。
- 2026年6月1日:第2報(出典1)に6月1日に加わった追記で示された社内調査の完了とMandiantへの監査の依頼を「対応と現状」に加えた。
- 2026年6月23日:Grafana Labsの事後レビュー(出典2)を加え、資格情報の見落としを「経緯」に、攻撃の経過を「時系列」に、非公開リポジトリと取得物の内訳を「影響範囲」に、監査と再発防止の措置を「対応と現状」に加え、リードの最後の文を事後レビューの説明に改めた。
- 2026年8月4日:CVE記録の8月4日の更新版(出典4)で、CISAによるKEVへの追加を「時系列」に加えた。
- 2026年8月26日:Grafana Labsの8月26日の発表(出典14)で示された顧客数を「影響範囲」に加えた。
